「書く」カウンセリング:筆記療法によってストレスが減り、記憶力も改善する

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筆記療法

カウンセリングは主に「語る」ことで行なわれます。

悩みや気がかりをカウンセラーに対して語ることで気持ちが楽になることを「カタルシス」と呼びます。シャレみたいですが、情動の発散といったような意味です。

でも対面でカウンセリングをしていても、カウンセラーに手紙やメールを書く人もいます。あるいは、ノートや手帳に気がかりを書き記しておいて、それを読みながら語る人もいます。

「書く」こともまた、悩みや心配を言葉にして荷下ろしするための方法です。それに、文章にしてみると、少し客観的に読みなおすことができます。

フロイトの「手紙セラピー」

フロイトが創始した精神分析では、語ることと聴くことが大切にされています。でも、フロイト自身は「書く」こともとても好んでいました。彼はたくさんの手紙を書いたことでも知られているのです。

フロイトは、父親が亡くなった後、汽車に乗れないという神経症に悩んでいました。その頃、フロイトは年上の親友フリースにたくさんの手紙を書いています。手紙にはフロイトが見た夢や、子どものころの記憶が詳しく描かれていたのです。

フリースとの手紙のやりとりをとおして、フロイトは自分自身の幼児期から続く葛藤などを自己分析していきました。

母親の愛情をひとりじめしたいという願望や、それを邪魔する父親への敵意などが、手紙を通して明らかになっていったのです。

ユングの夢日記

ユングもまた、自分の体験を書く/描くことを通して、独自の心理学理論を構築した人です。

フロイトと学問的に対立したことで、ユングはメンタルな危機に陥ります。このころのユングは、半分くらい、引きこもっていたようです。

引きこもっていったい何をしていたのでしょう?

この頃のユングは、夢などの自分の内なる世界をひたすら見つめて、それを文章や絵などで表現していました(『赤の書』というタイトルで邦訳されています)。

いわば、「夢日記」をずっと書いていたわけです。ユングにとっては、夢やイメージとの対話を書く/描くことが、自己治療のために必要だったのです。

『ユング自伝』には、ユングが体験したことがかなり詳細に記されています。また、ユングの『赤の書』には、夢やイメージとの対話(能動的想像というユング派の技法です)が描かれています。

こうしたイメージは、のちにユング心理学の概念として発展していきました。

フロイトはフリースとの「関係」のなかで自分を探っていきましたが、ユングはひたすら内的なイメージと対話していました。このあたり、フロイトの精神分析とユング派の違いがすでに表れていて、興味深いところです。

筆記療法によってストレスが軽減する

『筆記療法 トラウマやストレスの筆記による心身健康の増進』という本は、「書く」ことがいかに心身の健康にいい影響を与えるかということがテーマとなっています。

たとえば、毎日20分、3日にわたって生活上のさまざまな「問題」(不安なことやトラウマ的な出来事など)をノートに書き記します。すると、高血圧の人たちの血圧が下がったのだそうです。「書く」ことで、日々の生活における脅威が減ったのです。

また、ストレスがあると記憶力が低下すると言われていますが、ストレスについて「書く」ことで、ワーキングメモリ(記憶)が向上するということも研究で確かめられました。

ストレスフルな記憶は、断片的な情報として、整理されないままに心のなかに散らかっています。

整理されていない机の上に手つかずの書類が散らばっているのといっしょで、ストレスフルな記憶ほど思い出しやすいのです。つまり、それだけワーキングメモリを消費するわけです。

すると推論や問題解決能力が低下してしまいます。

「書く」という筆記表現によって、ストレスフルな経験の記憶は、ファイルに閉じられて整理されます。

机の上はきれいになり、そこで他の(もっと有用な)作業を行うことができるようになります。目の前の課題や問題を解決しやすくなり、その結果、健康状態が改善するというわけです。

筆記療法の方法

筆記療法には、自由に日記などを書いたり、フリー・ライティングといって思い浮かぶままに書きなぐる(自由連想法の筆記版といっていいでしょう)、詩歌などを書く、現実のあるいは想像上の誰かに対して手紙を書くなど、さまざまな方法があります。

学術的には筆記表出法(expressive writing therapy)と呼ばれているものの手続きを紹介してみます。実験で用いられた手順とのことです。

これから四日間、これまでの人生でもっとも心が傷つけられた体験に関して、心の奥底にある考えと感情を書いてください。心を開き、奥底にある感情と考えを探りながら書いてください。心が傷つけられたその体験と両親や恋人、友人、親戚など誰かとの関係に関連づけたり、あなたの過去や現在や未来と関連づけたり、これまであなたがどんな人間だったのか、どんな人間になりたいのか、今のあなたはどんな人間なのかということに関連づけてもいいでしょう。毎日、同じ問題や体験について書いてもいいですし、日によって違う心の傷について書くのもいいでしょう。あなたが書いたことの秘密は完全にまもられます。(2)

標準的には一回の筆記課題を十五分間、行ないます。誤字脱字や文章構成にはこだわらずにとにかく書き続けることが求められます。課題が終わったら、書いた文章は持ち帰ってもいいし、破り捨ててもいいのです。

筆記療法の基礎的な研究では、トラウマ体験やストレスフルな体験をめぐる感情や思考を書いた人たちには次のような効果が認められたとのことです(2)。

  • 医療機関への通院回数の減少
  • 健康的自覚症状の訴えや心理的苦痛の現象
  • 免疫反応の増進や適応的行動の増加
  • 認知機能の改善

どのようなメカニズムでこうした改善が生じるのかはまだよく分かっていないのですが、内分泌系や免疫系に影響を与えることが身体的健康の回復につながっているようです。ただし、トラウマ体験を書くということは、暴露療法(エクスポージャー)的な側面をもっているため、筆記の最中やすぐ後には動揺が見られることもあるとのことです。

私が関わったことのある方でも、自ら自分の過去のトラウマ的な体験を文章にした人がいました。書き綴っている最中はかなりきつかったが、一通り書き上げると書く前よりもずいぶん楽になったと話していました。

ただし、うつ病やPTSDなどの症状が強い場合は、医療やカウンセリングなどのサポートなしで一人で行なうことは慎重になった方がいいでしょう。

筆記療法は、安価で効果的な治療法として有望視されています。また、インターネットによる筆記療法も研究されつつあります。

 

【註】

(1)S.J.レポーレ+J.M.スミス編『筆記療法 トラウマやストレスの筆記による心身健康の増進』余語真夫他訳、北大路書房、2004年

(2)余語真夫「筆記療法—感情を書き綴る」『現代のエスプリ469 新しいストレスマネジメントの実際』至文堂、2006年、94頁〜102頁

 

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